あ ん

 

映画「あん」を観た。「あん」とは小豆を煮てつくった「あん」のことだ。その「あん」が結んだ、どら焼き屋「どら春」の店長千太郎、あんづくりの名人の徳江、「どら春」の常連、中学生のワカナの物語だ。あらすじは、春の出会いから始まる。

 

「どら春」に、満開の桜の下を散歩していた徳江がやってくる。徳江は、店先のアルバイト募集の張り紙を見て、「これ、本当に年齢不問なの?」と尋ね、名前を名乗り雇ってくれないかと言う。千太郎は断り、どら焼きを一つ徳江に差し出す。そのどら焼きを手に、徳江は、にこやかに去っていく。ワカナは千太郎に「雇ってあげればいいのに」と言う。

夕方、また徳江がやってきて、「どら焼き、皮はまあまあだけど、あんがちょっとね」と言い出す。そして帰り際に袋を置いていく。千太郎が、開けると、中に粒あんが入っていた。

臭いをかぎ、人差し指で少しすくって口に入れる。その味に驚き、次は大きくすくって味わう千太郎。

桜も散り、葉の緑色が鮮やかな季節、再び徳江が訪ねてきた。

 

徳江は、あんを作るようになる。そのあんが美味しいという評判で、店先に行列ができるようになる。しかし秋になる頃、徳江がハンセン病回復者だという噂がたち、ぱったりと客足が途絶える。その前に、噂を聞いた「どら春」のオーナーから徳江を辞めさせるようにと言われていたが、千太郎は聞き入れなかった。むしろそれまで、あんづくりだけを担当していた徳江に、店の接待までまかせるようにしたのだ。

徳江は店に来なくなった。徳江を守ることができなかったと自分を責める千太郎。そして・・・

 

この映画の中では、千太郎の焼くどら焼きの皮と、徳江が炊く粒あんの映像から、その美味しさが伝わってきて、食べてみたくなる。

手間ひまをかけて粒あんを炊く徳江に、千太郎が、「いろいろややこしいですね」というと、徳江は「畑から来てくれた豆へのおもてなし」だと答える。その思いがこもっているからこそ、「美味しそう」に思えるのだ。

 

徳江の最後のメッセージの中の「わたしたちはこの世を見るために、聞くために生まれてきた。だとすれば、何かになれなくてもわたしたちには、生きる意味があるのよ」という千太郎に向けた言葉は、重くずっしりと心に響いた。満開の桜で始まり、満開の桜で終わる映画で、悲しみや怒り、また喜びも決して激しく語られるわけではなく、むしろ淡々と描かれている。

 

徳江を演じた樹木希林さんは、撮影の合間に、こんな面白い人がいるよと教えられ、鹿児島県鹿屋市の星塚敬愛園に住むUさんを訪ねたそうだ。Uさんは「あんたテレビに出てるあの人に似てるね」と言い、樹木希林だということに気付かなかったらしい。Uさんが昔話をしているとき、訴えるわけでなく「こんなことがあってね」と穏やかにぽつんと語る言葉が、むしろ堪えたと言い、この痛みを芝居でどう表現したら良いかと考えたそうだ。

 

撮影が終わった後、原作者から初めてUさんがモデルだということを聞かされ、樹木希林さんはつながりを感じたそうだ。

人は、様々なつながりの中で生きている。私は、「あん」を観て、「人が人とつながり生きること」が大切なんだということを改めて考えた。

 

2015年 /日/113分/ エレファントハウス配給

 

 

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