それでも夜は明ける

 

~独立宣言~

 

 時は、1841年、リンカーン大統領により奴隷解放宣言が署名される20年も前のアメリカ合衆国でのことである。北部には「自由証明書」を持つ奴隷ではないアフリカ系アメリカ人が存在した。ソロモン・ノーサップ(キウェテル・イジョフォー)もその一人で、著名なバイオリン奏者として白人からも敬意を集めていた。愛する妻と幼い二人の子どもに囲まれ、サラトガという町で幸せな生活を送っていた彼の身に突然の不幸が訪れる。旅行先のワシントンDCで誘拐され、南部に奴隷として売られてしまうのだ。

 

 「それでも夜は明ける」は、彼が奴隷として南部で過ごした12年間の回想を綴る。実話に基づいた物語で、新進気鋭のスティーヴ・マックィーン監督のもとに現代映画界の至宝ともいうべき俳優たちがこぞって集結し、そのキャスティングだけでも大きな話題を呼んだ作品である。

 映画は、すでにソロモンが奴隷として働いているシーンから始まる。一連のフラッシュバックから、彼がサーカスでのバイオリン演奏を二人の白人から引き受け、その成功を祝う宴で泥酔したことがわかる。翌日手枷足枷をつけられた状態で目覚めた彼は、自分が不法に奴隷として売られてゆくことを理解するのだ。

 南部に向かう船の中で、同じような境遇のアフリカ系アメリカ人から「生き延びたければ、目立たないようにしておくことだ」と助言されたソロモンは、首を振りながらこう答える、「ほんの数日前まで、家族とともに自由な身だった自分にすべてを捨ててしまえと言うのか?!私は、自分を殺し、へつらいながら生き延びたい(survive)のではない、自由に考え、思ったことを堂々と言い、人間らしく生きたい(live)のだ」と。
 それは、ソロモンの個人としての「独立宣言」だった。そして、この人間としての権利の主張こそが、辛く厳しい彼の12年間を支える基盤となるのだ。「家族のもとへ帰るんだ」という思いを決して諦めることなく抱き続ける力となるのだ。

 

 人は、慣れ親しんでいる自分のまわりの形態を撤廃することで、自分の置かれている状況を良くしようとはなかなかしないものだ。それよりも、ちょっと我慢すればしのげるくらいの不自由さなら耐えようとする傾向がある。しかし、人間として当然保障されるべき権利を力ずくでおびやかそうとするものに対して、抗いながら自らの環境を変えるべく動き出すことは、正しい行いであり、またそうすべきことでもあるのだ。
 血と涙で彩られ、残酷な暴力の描写を控えようとしないこの作品は、目を覆いたくなるような場面もあるけれど、人を惹きつけて止まない魅力と衝撃に満ちていることに間違いはない。ソロモンが経験する闘いと、服従と、これ以上ないほどの絶望と、それでも決して諦めない強靭な意志の力を、しっかりとあなたの心に焼き付けてほしい。

 心を揺さぶられる未曾有の感動作は、第86回アカデミー賞で「作品賞」「助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)」「脚色賞」の3部門を受賞したことを申し添えておく。(G)

 

2013年・米英合作・134分・ギャガ配給

 

 

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