ダラスバイヤーズクラブ

 

~自分を大切にするように他人を大切にする~

 

マシュー・マコノヒーという役者は、痩せてぎすぎすした風貌からは想像もつかないほどの躍動を「ダラス・バイアーズクラブ」という作品に与えた。ロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)というテキサス州で電気技師をしていた男がエイズであると診断されてから、治療法を自分で研究し、さらに他のエイズ患者に対しても薬を調達したという話だ。ただし、それは1985年当時アメリカ合衆国では法的に認められていなかった薬物であった。

 

 このロンという男は、女好きで、煙草と酒を絶やさず、賭け事に現を抜かし、持前の傲慢さをときに麻薬で増幅させる生活を送っていた。アメリカで最も保守的とされるテキサス州で、同性愛者を毛嫌いしていた男が突然HIV陽性により余命30日と宣告されたのだ。同性愛者=エイズという盲目的な偏見に囚われていたロンにとってそれはにわかには信じがたい事実であった。

 治療の方法を模索しメキシコへ入国した彼は、医師免許をはく奪されたもぐりの医者から薬とサプリメントの組み合わせが免疫機能を高めていく方法だと教えてもらう。アメリカでは禁止されているが効果が見込める薬を国内に持ち込んだロンは、患者たちに薬をさばくために、ビジネスパートナーとしてトランスジェンダーのレイヨン(ジャレッド・レト)を仲間に引き入れる。

 

 薬の販売ルートを広げてくれるレイヨンは、ロンにとって必要であったが、同性愛者に対する偏見をロンはどうしても捨てきれない。しかし、この物語を通して彼らの関係が大きく変わっていく様を見届けることができる。それはロンが「自分を大切にする」だけでなく、レイヨンの人権が侵害されていることに対して「おかしい」と感じ、その問題を解決せずにはいられない気持ちになる、いわゆる人権意識が芽生えてきたことによって起きた変化なのだと思う。

 

 2008年文部科学省は、人権教育「第三次とりまとめ」を発表した。その中で、人権尊重の理念を「自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること」とわかりやすい言葉で表現したことはご存じだろう。人権が守られていることを望ましいと感じ、逆にこれが侵害されていると知ると、それを許せないと思う感覚を身につけることの大切さを説いている。この感覚が、問題状況を変えようとする意欲や態度につながり、自分の人権とともに他者の人権を守るような実践行動を導き出すと考えられるのだ。

 

 自分が健康になりたいと思って飲む薬を、「これは国が認めていないから」と妨げる司法の動きに対して徹底的に抗い、患者を見殺しにしようとする製薬会社に対しても果敢に戦いを挑んでいくロンを、いつしかレイヨンも手放しで応援し始める。飲んだくれでわがままな男が、有能な科学者へ変貌を遂げ、生き続けたいという欲求に駆り立てられた男は、自分だけでなく他人も含めた生きる権利のために奮闘する。

 

 筋肉美で知られるマシュー・マコノヒーは、役作りのため21キロにおよぶ減量を達成し、第86回アカデミー賞で主演男優賞を獲得した。死の宣告を受けた男の絶望とそれを乗り越え、生を勝ち取ろうとした力強さを、彼の素晴らしい演技で自分のものとして感じてほしい。(G)

 

2013年/米/117分/ファインフィルムズ配給

 

 

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