コン・ティキ

 

~常識を疑う

 

1947年ノルウェーの動物学者であり冒険家のトール・ヘイエルダールは、*バルサ材で作ったイカダで南米ペルーからポリネシア諸島へ向けて旅に出た。イカダの名前は、太陽神にちなんだ「コン・ティキ」、この映画の題名でもある。

 

ヘイエルダールは1930年代後半にポリネシアに住み、その時学んだことからポリネシアの人々は南米から移住してきたのではないかという仮説を立てた。それは、当時の多数の学者たちが唱えていたポリネシア人はアジアを起源とするという学説からは異端とされるものだった。

ヘイエルダールの考えに懐疑的で理解を示さない学会に対して、自らの説が正しいことを証明するため、彼は古代でも入手可能な材料のみでイカダを作る。そして、5人の仲間と101日間の航海に出るのだ。ペルーからポリネシアまでは、8,000㎞。同じ志をもつ仲間が集まり、信念を貫く命がけの冒険が始まる。

 

大海原の上では当然のように予想できないトラブルも発生する。手に汗にぎるスリルがあり、興奮をかきたてるアクションがあり、神秘的な大自然の美があり、男同志の友情の物語がある。

嵐が小さなイカダを襲い、好奇心旺盛のサメに遭遇し、イカダの上の狭すぎる空間が6人の男に余計なドラマを作り出す。船旅が長くなり、イカダが分解しそうになっても、ヘイエルダールは頑強に安全な最新の素材を使用することを拒む。それが、6人に不協和音を生じさせるのだが、船長である彼は、乗組員たちに何度も「信じよう(Have faith)!」と呼びかけるのだ。

「コン・ティキ」は、英語とノルウェー語の両方で撮影された。しかし、一番の見せ場に言語はどうやら関係ないようだ。大海の上の小さなイカダの運命は、大自然の中では小さな存在である人間の手に到底及ぶものではないのだが、真実を追求する男たちの前には広大な世界さえも静かに身を潜めているように思えた。

 

ヘイエルダールの検証(冒険)は、「常識を疑う」ということから始まったのだが、私たちにとって実はこれはとても難しいことだ。現在私たちが「あたりまえ」と感じていることは、必ず正しいと決まっているわけではない。私たちは現代の常識を、何の疑問も抱かず受け入れているが、ちょっと昔のことを考えてみれば、「常識」というものが時代とともに変化していることが分かる。また、毎日同じような環境の中に身を置いていると、凝り固まった考え方を「真理」だととらえてしまうこともある。一般に流布されている事柄を何も考えずに鵜呑みにしてしまうことは起こりがちだし、マスコミによって与えられる情報を自分で検証することなしに「真実」だと認識することは多くの人が普通に行っている。

私たちは、自分で気づかないうちにたくさんの先入観や偏見をもっている。そして、偏見に染まってゆく傾向をもっていることも否めない。これらの偏見を拭い去り、常にでこぼこのない滑らかな心をもつようにしたいものだ。

 

命がけで自分の考えが正しいことを証明しようとしたヘイエルダールの冒険を描いた本作品に、私たちは「挑戦する」ことの素晴らしさを見出し、胸の高鳴りを感じることができるだろう。(G)

 

2012年・イギリス・ノルウェー・デンマーク・ドイツ合作・113分・ブロードメディア・スタジオ配給

 

*バルサ材…メキシコ南部からペルーに自生する常緑高木を使ったイカダの材料。非常に軽く、救命具・浮標・航空機材料などにも使用される。

 

 

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