殯(もがり)の森

 

こうしゃなあかんってこと、ないから

 

この作品は、その大きな国際舞台で、最高賞パルムドールに次ぐ、グランプリ(審査員特別大賞)を受賞した。日本人のグランプリ受賞は17年ぶりだそうな。発表のとき、映画の題名は「ザ・モーニング・フォレスト」と呼ばれた。morning(朝)ではなく、同じ発音のmourning(喪)だ。殯は映画の中では、「敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間のこと/また、その場所の意」と説明されている。

 

聞きなれない「殯」という言葉をあえて使い、かけがえのないものの死をどうすれば受容できるかを問いかける作品である。33年前に妻を亡くした認知症の男性=しげき(うだしげき)と、息子の死に自責の念を抱く新任介護福祉士の女性=真千子(尾野真千子)。ふたりがさまよう深い森は、亡くした親愛なるものとの訣別の場となってゆく。

 

映画の中で、介護福祉士のまとめ役である「主任」と呼ばれる女性(渡辺真起子)が何度か言った言葉が心に残った。

「こうしゃなあかんってこと、ないから」。

しげきのことをよく理解できずトラブルを起こした真千子が、「すいませんでした」と謝ると、「謝ることないよ。だれも悪くないんだから」と慰め、そのあとにこの言葉を続けた。「こうしゃなあかんってこと、ないから」。

 

こうしなくちゃいけないってことはないよ。「こうあるべきだ」って自分で自分を堅苦しく追いこむ必要はないよ。もっと余裕をもって、もっと自由に、生きていいんだよ。広く、大きく包み込んでくれるようなやさしさを感じさせる言葉だ。映画を観ている“私”に語りかけてくれているようだった。何だか勇気をもらった気分になった。
「こうしゃなあかんってこと、ないから」と、自分に言い聞かせながら生きてゆこう。心に少し余裕をもって。そして、できれば同じ台詞を人に言えるようなあたたかさを持つように心がけよう。

 

美しい映像と象徴的なシーンに、「芸術作品だなあ」と感じた。そう、映画は芸術だ。そして、そこには必ず人がいる。人と人とのふれ合い、ぶつかり合い、命と命のたしかな結びつきがある。生きてゆくこと、死んでゆくこと。それもやっぱり人と人との結びつきなしには語れないものなんだとあらためて感じた。(G)

 

2007年・日仏合作・97分・組画配給

 

 

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