リンカーン

 

~平等権~

 

第16代アメリカ合衆国大統領=エイブラハム・リンカーンは、1809年にケンタッキー州の農民の子として生まれた。「神さまは、よほど普通の人間がお好きなんだね。さもなければ、こんなにたくさん普通の人間をおつくりにはならなかったろうから」という言葉を遺したことからもわかるように、農民や商人などの庶民を愛し、それゆえに国民からも人気のある大統領であった。

かのスピルバーグ監督が撮った「リンカーン」という作品は、このアメリカ史上最も偉大な大統領の最後の4カ月の政治劇を彼の家族との葛藤を交えて語り、誤解や孤立を恐れることなく闘い抜いた一人の人間の姿を凛々しく描き出す。まさにリンカーンになり切ったダニエル・デイ・ルイスをはじめとして、数々の名優が圧巻の演技を繰り広げる。

 

時は、1865年1月、国を二つに分けた南北戦争が四年目に入る中、リンカーンは、奴隷制度を廃止するために合衆国憲法修正第十三条を下院議会で通すことに心血を注いでいた。しかし、自分の所属する共和党の票をまとめてもあと20票足りないという状況で、彼は、国務長官のウィリアム・スワード(ディヴィッド・ストラザーン)に指示して、敵対する民主党議員の切り崩しを目論むのだった。

 

政治的内容の対話劇は徐々に刺激的になり、小気味好い台詞が観る者をどんどん話の内容に引き込んでいく。余計な装飾を削り落した物語は、わたしたちの気持ちを高揚させ、大きな感動へと導いていく。

一世紀半前に実際に起こった出来事を詳細に追体験できるだけでも価値がある。それに加えて、「人はみな生まれながらにして平等である」という、これまで何度も聞いたことのある自明の事実を改めて考える機会を与えてくれる作品でもある。

 

日本の憲法第十四条でも謳われている「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という“平等原則”は、実は長く厳しい闘いの末に“普通の人々”が勝ち得たものであることが理解できる。そして、この平等権を含む基本的人権は、これからも侵すことのできない永久の権利として“普通の人々”に与えられ続けなければならない。

今は貴族や華族はいないし、性別による差別は禁じられ、住む場所やどんな職業を選ぶのかも自由である。法的な紛争が起これば、誰でも裁判を受けることができる。そう、日本は平等な社会を実現する素地をもっている。

しかし、現実社会にはさまざまな差別問題が残っている。部落差別の問題、アイヌ民族の差別問題、そして1999年に男女共同参画社会基本法が制定されたにもかかわらず女性の社会進出の状況を見ると、両性の本質的平等も実現されたとは言い難い。わたしたちの前には、まだまだ取り組まなければならない課題が多く残されているのだ。

 

「今何をするかが、これから生まれ来る無数の人々の未来を決める」と信じて数々の困難を乗り越えたリンカーン大統領の生きざまからわたしたちはたくさんのことを学ぶことができるのではないだろうか?卓越した政治家であると同時に、思いやりがあり、冗談の好きな、人間味あふれるリンカーンの素顔を描き出したこの作品は、間違いなく歴史に残る名作である。(G)

 

12年・米・150分・20世紀フォックス映画配給

 

 

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