アルゴ

 

T 信頼

 

1951年、イランでは、民主的に選ばれたモサデク首相が、それまで英国のいいなりになっていた石油産業の国有化に着手した。ところが、1953年、米英の情報機関などが支援した軍のクーデターでモサデク政権は崩壊し、パーレビ国王が米国の力を背景に、急速な西洋化を進めていく。

パーレビの独裁的な政治手法とランチをコンコルドでフランスから運ばせるような浪費、そして広がる貧富の差についに国民が激怒。イスラムシーア派を中心とする反体制運動が激しさを増す中、1979年1月、パーレビはイランの地から逃げ去り、米国へ亡命する。

入れ替わるように宗教指導者ホメイニ師が帰国しイラン革命が起こった。11月4日、米国大使館にパーレビの引き渡しを要求する暴徒が押し寄せ、52人を人質に取る。騒乱のさ中、6人の大使館員が脱出に成功、カナダ大使の自宅に匿われる。しかし、いずれその身元は割れるはず。そうなれば、彼らの命はもちろん、大使館の52人の命も危ない。

 

今回紹介する映画は、このイラン革命時の米国大使館襲撃事件という歴史的事実を基に作られた「アルゴ」という作品だ。カナダ大使の家に身を潜める6人の救出作戦を請け負ったのは、CIA(米国中央情報局)の人質奪還のプロ、トニー・メンデス(ベン・アフレック)だ。彼は、6人を偽の映画製作スタッフに仕立ててイラン国外へ逃がす計画を思いつく。

そして、偽の映画を本物に見せるために、映画産業本場のハリウッドで特殊メイクの第一人者(ジョン・グッドマン)と大物プロデューサー(アラン・アーキン)の協力を仰ぐ。脚本が用意され、豪奢なホテルでの大々的な記者発表が行われ、さらに大衆雑誌に広告を出すなど、またたく間に準備がすすめられていく。

 

英語で、身震いするような感動、ワクワク(ゾクゾク)するような感じを”thrill”(スリル)と表現し、そういった感情を起こさせるものを”thriller”(スリラー)と言うのだけれど、この映画の最後の30分は、まさに極上の「スリラー」で、文字通り“手に汗握る”興奮の展開となっている。

 

さて、短い時間で周到に準備されたこの奇想天外な救出計画には、承認を得る過程で何度も「ダメ」を出されたが、単身イラン国内に乗り込んだトニーにとって究極のダメ出しは、今からまさに救い出そうとする6人からのものであった。6人からの信頼を得るために、トニーは「絶対に君たちを国外に逃がす」「今まで(救出作戦で)見捨てたことは一度もない」と説得をするのだが…。

信頼を得るために、どんなことが必要だろう?正直さであったり、約束を守ることであったり、小さなことをおろそかにしないことであったり、いろいろあると思うが、一番大切なことは「私はあなたの味方だよ」というメッセージを送り続けることだと思う。口数が少なく、無造作に見えるトニーが、不安におびえ、いらだちを隠せない6人のばらばらな気持ちを少しずつ少しずつまとめあげていく様は静かな迫力がある。

 

実話に基づいたこの作品は、娯楽映画としても非の打ちどころがない仕上がりになっている。主演も務めたベン・アフレックの監督としての手腕もゆるぎないものとして認められたのではないだろうか。そして、あなたからの信頼を得ている私も“イチオシ”の作品である。(G)

 

2012年・米・120分ワーナーブラザーズ配給

 

 

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