ミッドナイト・イン・パリ

 

ノスタルジア

 

「古き良き時代」という言葉が示す通り、過去は現在と比べてきらびやかで充実した時代に 思えることがある。「もう戻れない」という切ない思いがさらにそれを魅惑的に見せるのであろう。

 

「ミッドナイト・イン・パリ」 は、ウッディ・アレン監督のうっとりするような映画で、「あの時代にもし戻れたら」という願いが現実のものとなるお話である。

 

ギル(オーウェン・ウィルソン)は、現在の自分に満足していないハリウッド映画の脚本家で、若い頃からの夢であった小説家への転身を考えていた。

2010年夏、婚約者のイネズ(レイチェル・マクアダムズ)とパリを訪れていた彼は、ある夜タイムスリップ(?!)をして、1920年代のパリに迷い込む。そこはフィッツジェラルド夫妻やガートルード・スタイン、ヘミングウェイなど高名な作家たちやピカソやダリなど超一流の画家たちが遊ぶ街であった。

 

そしてギルはそこで出会ったアドリアナ(マリオン・コティヤール)という女性に惹かれていく。アドリアナは、ベル・エポックと呼ばれる1900年ごろのパリが繁栄した華やかな時代に憧れを抱いていた。彼女は、自分の生きている1920年代に不満をもっているのだが、それはそのままギルが2010年の現代に感じているものであった。そう、「昔は良かったなあ」は、その“昔”に戻っても同じことなのだ。

 

人が昔を懐かしく思うのは、「良い過去」と「悪い現在」の対比からだという。現在の自分の置かれている状況に不満があると、過去は輝きを増し、現在に対する不安をより実感することになる。

しかし、私たちは「今」を生きているのだ。釈迦の言葉に「過去を追うな、未来を願うな」というのがある。過ぎ去った出来事は取り戻すことはできないし、いまだ到っていないことも自分の力は及ばない。大切なことは「今」がどうかということだ。周りをよく見て、自分が正しいと思うことを、迷わずやり抜くこと。熱意と責任感をもって前向きに行動すれば、明るい未来は自ずとついてくるものなのだから。

 

花の都パリは、華麗で、円熟した街で、快活でかつ憂鬱で、その魅力を画面の中にも存分に出している。エッフェル塔、オランジュリー美術館、セーヌ河岸、ヴェルサイユ宮殿など、有数の名所でのロケは、映画に華やかさをそえる。俳優陣も豪奢な顔ぶれで、アカデミー賞受賞者たちにまじって当時のフランスのファーストレディ(サルコジ前大統領夫人)が出演しているのもおもしろい。

 

1935年生まれのウッディ・アレン監督は、この作品で「人生は悲しく、満ち足りないものだということを伝えたい」と語った。監督作品42本目となった本作で自己最高の興行成績を樹立し、喜寿を迎えようかという話術の達人はアカデミー賞脚本賞三度目の受賞を果たした。ただし、ご本人はその賞の授賞式に出席しないことで有名で、2012年2月に行われた第84回の式も例外ではなかった。権威におもねらないところがかっこいい。(G)

 

10年・アメリカ=スペイン・94分・ロングライド配給

 

 

↑Page top