アーティスト

 

誇り

 

あなたは覚えているだろうか?古き良き時代、銀幕が壮麗で魅惑的でけたたましい声に台無しにされなかった無声映画の頃を。

いえいえ、覚えている人などいないだろう。最初の発声映画(トーキー)が作られたのが1927年のことだそうな。1930年代になるとトーキーは世界的に大人気となった。自然に無声映画は廃れていく運命をたどることとなる。今から80年ほど前のことである。あなたがまだこの世に生を受ける前の出来事ではないだろうか?

 

「アーティスト」は2011年にフランス人のミシェル・アザナヴィシウス監督が映画への愛を込めて制作した白黒の(ほぼ)無声映画である。発声映画の出現に苦悩する無声映画時代のスターである主人公、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)と新しい時代のスター、ペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)との関係を紡ぎだすことにより、「映画」という力強い媒体のもつ素晴らしさを讃え、そのきらびやかさと同時に人生の苦しみを見事に描き出し、「語る」ことを必要としない語り口で観衆を魅了する。

 

つややかな髪にキラリと光る歯そして細い口髭をたくわえたジョージは今をときめく映画スターだった。大衆にあがめられる優雅なエンターテイナーはビバリー・ヒルズの豪邸に献身的な犬と少し生活に疲れた妻と気ままに暮らしていた。

 

そして、発声映画の到来である。

 

「映画の中で“しゃべる”なんて、そんなばかばかしいことできるわけがない」と考えるジョージは無声映画にこだわるのだ。自ら見出した若手女優のペピーが、発声映画の普及と時を同じくしてスターの座にのし上がる様を横目で見ながら、時代の変化を頑なに否定し没落の一途をたどっていく。妻に愛想をつかされ、映画会社のボスからは距離を置かれ、スターはその輝きを失っていく。愛犬とお抱え運転手だけが彼の味方としてそばにいる中、人々から忘れ去られてゆく苦悩にさいなまれても「しゃべる」ことを拒み続けるのであった。

 

「無声映画こそ芸術。自分は芸術家(アーティスト)だ」と自負するジョージには誇りがあった。そしてその誇りが彼を追い詰め、彼からすべてのものを奪ってゆく。金がなくなり家を失い仕事も回ってこない。しかし、彼は自分の立場をくずさ ない。自分でつくり出した価値観を守りぬこうとするのだ。

自分が納得できない考え方に従って生きることは不幸なことだ。信念を貫き、正しいと思うことを行動に移していく。自分自身の手によってつくり上げた価値観をもって生きていくことが充実した人生を送ることにつながるのではないだろうか。ジョージは、どんなに落ちぶれても自分を大切にし、ユーモアを忘れない。そんな彼だからこそ、ペピーも、運転手も、愛犬も彼を見捨てることはしないのだ。

 

情熱的で郷愁にあふれる21世紀につくられた無声映画である本作は、単なる懐古趣味ではない。美しいモノクロの映像は、まずカラーで撮影しそれを白黒に処理するという手が込んだものだという。美しくダンスを踊り、豊かに心情を表現するこの 映画が、第84回アカデミー賞で、作品賞・監督賞・主演男優賞などを獲得したこともうなずける。まさに温故知新の秀作である。(G)

 

11年・仏・100分・ギャガ配給

 

 

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