第9地区

 

差別する側の変容

 

「第9地区」は、南アフリカ共和国出身のニール・ブロムカンプ監督が制作したSF映画である。異星人(エイリアン)を侵略者でもなく友好的な存在でもなく差別の対象として描き出し、今まで人類がお互いをどう扱ってきたのかを思い出させる物語となっている。

 

1980年代、大型の宇宙船が南アフリカ共和国最大の都市ヨハネスブルグの上空に現れる。船内には飢えて混乱状態の異星人たちが大量にいた。彼らは救助され市内の一部に設けられた難民キャンプに移される。厳重な警備によって外部との接触を一切断たれたその区域が映画のタイトルにもなっている「第9地区」だ。それから20余年、その地区には掘っ立て小屋が立ち並び、発展途上国に見られるスラム街の様相を呈していた。

そこに住む異星人たちは、背が高く痩せて、二本足で歩く昆虫のような生き物だ。その甲殻類にも似た外観から、「エビ」という蔑称で呼ばれる彼らは、明らかに地球より進んだ文明を持ちながらも日常の生活は薄汚く社会にとって脅威と映る存在だった。そして、南アフリカ共和国のすべての人種から、何か悪いことをしそうだと疑われ、ときに憐みの対象となり、異質なものとして敵意をもって見られていた。

 

南アフリカ共和国出身の監督がヨハネスブルグを舞台に社会から疎まれる異星人たちを描く。どうしたってこの国のアパルトヘイトの歴史とそれに続いて起きている社会問題を思い出さないわけにはいかない。しかし、それだけではない。この映画が暗示するのは、特定の国の事情だけでなく、この惑星全体の問題、わたしたちみんなが心の奥底に抱える問題だ。

MNUという民間軍事企業がこの異星人たちの管理を任されていた。あるとき、第9地区であふれんばかりに増えた彼らを新しい郊外の居住区にごっそり移してしまおうという計画がもちあがる。その責任者に選ばれたのがヴィカス(シャルト・コプリー)、ちょっと神経質で会社に忠誠を尽くす平凡な人物だ。彼の義父はその会社の社長で、この重大な任務を娘婿にうまくやり遂げてほしいと願うのだが・・・。

 

このヴィカスの身にとんでもないことが起こることで、映画を観ている私たちは彼の立場で物語を体験することになる。そして、SF映画の流れであったこの作品がホラーじみたアクション映画へと趣を変える。

人種差別、移民問題、そして貧富の差といった現実の世界が抱える困難な状況を想起させながら、ヴィカスの身に降りかかる災難をドラマで綴る語り口にどんどん引き込まれていく。この映画が伝えるのは、社会的に主流を占めるグループに身を置く者がどのようにして自らの過ちに気づくのかということである。彼らを社会の中で優位に立たせている不正義を彼ら自身が間違いだと認め、自らその償いをしようとする過程を描き出す。

自分を守っていたものがはがれ落ち、愛する人たちが去って行き、すべてを失くした時、人は丸裸になる。そして、そのときこそ、自分の根元は何なのか、どこにあるのかを本当に感じることができるのだ。(G)

 

09年・米・111分・ワーナー・ブラザーズ配給

 

 

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