しあわせの隠れ場所 T h e  B l i n d  S i d e

 

〜日常に見出す非日常〜

 

野球とバスケットボールにならんで、現在アメリカ合衆国で最も人気のあるスポーツにアメリカン・フットボールがある。そのプロリーグNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のボルチモア・レイブンズに所属するマイケル・オアーという選手がいる。彼の大学1年次までの生涯が「T h e  B l i n d  S i d e」という題名の本で出版された。今回紹介する映画は、その物語をもとに作られた「しあわせの隠れ場所(邦題)」という作品だ。

 

高校生のマイケル・オアー(クイント・アーロン)は、類まれなる体格と運動能力を持ちながら、ろくに教育を受けていない子どもだった。父親とは死に別れ、母親は麻薬中毒で保護能力がない。お金もなく、いつも一つしかない着替えの服をプラスチックバッグに入れて持ち運んでいた。寝る場所もなく、こっそり学校の体育館で雨風を凌ぎ、スポーツ・イベントで残されたポップコーンを拾い集めては飢えを凌ぐ生活だった。

同じ町に夫と二人の子どもたちと裕福に暮らすアン・テューイ(サンドラ・ブロック)という女性がいた。こうと決めたら突っ走るタイプで竹を割ったような性格のアンは、寒い真冬の夜、Tシャツ一枚で歩くマイケルの姿を見つけると、迷うことなく自分の家に迎え入れるのだった。

この家族が素晴らしくいいんだな。多感なティーン・エイジャーの女の子コリンズも元気いっぱいの男の子S.J. もマイケルを本当の兄弟のように思い、父親のショーンもあふれんばかりの包容力で家族を包み込む。「絵に描いたような幸せな家庭」という文句がぴったりの温かい空間で、マイケルも徐々に心を開いていく。

 

心に残った台詞がある。マイケルを家族として迎え入れたアンに友人たちが言う、「あなたが彼の人生を変えたのね。」それに対して、アンはこう答える、「いいえ、彼が私の人生を変えてくれたのよ。」そう、アンは上から目線ではないのだ。「貧しいあなたに、豊かな私がしてあげているのよ」という驕り高ぶったところがまるでない。それどころか、自分にしてもらったことや食事に感謝するマイケルのしあわせ姿から、アンは幸せとは何かを学び取っていく。何度も感動の涙を流さずにはいられないこの映画が、いわゆる「お涙ちょうだい」ものと一線を画すのは、アンとその家族がマイケルを一人の人間として尊重する姿勢を崩さないからだ。

 

やがて、マイケルはアメリカン・フットボールの選手として傑出した才能を開花させるのだが…

マイケル・オアーは、温かい家庭に迎えられるなんて夢にも思っていなかったろう。そして、2009年のNFLのドラフトで1位指名されるなど考えもしなかったに違いない。アメリカ南部の金持ちの女性が、彼女の2倍もあろうかという黒人の男の子を養子に迎えることなど想像したことがあっただろうか。この映画が用意してくれるのは、思いもかけない展開であり、それが私たちを愉しませてくれるのだけれど、これは実話であり、驚くべき感動は日常に隠れているのだと私たちに気づかせてくれる物語でもあるのだ。(G)

 

09年・米・129分・ワーナー・ブラザース映画配給

 

 

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