インヴィクタス/負けざる者たち

 

赦すことは赦されること

 

ネルソン・マンデラは、1918年南アフリカ共和国に生まれた。「人類に対する犯罪」とまで言われた悪名高いアパルトヘイトの国だ。大学在学中に反アパルトヘイト運動に取り組み始め、一九六四年国家反逆罪で収監され、90年に釈放されるまでの27年間、獄中生活を送る。釈放後、アパルトヘイトを撤廃する方向に南ア共和国を導いたことで、93年にノーベル平和賞を受賞する。94年に、同国初の全人種参加選挙が行われ、大統領に就任。この年アパルトヘイトは完全撤廃された。

 

今回紹介する映画「インヴィクタス/負けざる者たち」は、アパルトヘイト撤廃後の新しい社会を祝うかのように95年に南ア共和国で開催されたラグビーのワールドカップを通して、大統領就任直後のネルソン・マンデラが自国をひとつにまとめていく過程を描いたものだ。この映画は、ジョン・カーリンのノンフィクション小説を基にして作られている。

多くの黒人たちは、マンデラの大統領就任後、アパルトヘイト下での数十年にわたる暴力と屈辱への復讐を求めていた。しかし、モーガン・フリーマン演じるマンデラは、「恨みを晴らす」ことは誕生したばかりの不安定な民主主義にとって悲劇をもたらすものであることがわかっていた。そうして、彼は狭義の同胞たちの期待を裏切る形で、広い意味での同胞のために尽くしていくのだ。クリント・イーストウッド監督は、ラグビーというスポーツを題材に、偏見や先入観を克服する術と理想的なリーダーのあり方を私たちに提示してくれる。

南ア共和国のラグビーのナショナル・チーム「スプリング・ボクス」の当時の主将であったフランソワ・ピナール(マット・デイモン)にマンデラは一方ならぬ期待をかけ、投獄中に自分の心の支えとなった「インヴィクタス」(ラテン語で〝不屈〞を意味する)という詩を紹介する。そして、ピナールもマンデラの人となりに魅かれ、チームをまとめていくのだ。白人のスポーツと目されていたラグビーを黒人の大統領が全面的に応援し、ワールドカップで快進撃するわれらの15人に国中が熱狂する。「あきらめなければ、私たちの手で世界を変えることができる」というメッセージをこの二人が伝えてくれる。

30年近い獄中生活で培われた不屈の魂の持ち主ネルソン・マンデラは、自分を投獄した側の人たちをも包み込む愛情を持つ寛容の人でもあった。

 

生きることは愛すること
愛することは理解すること
理解することは赦すこと
赦すことは赦されること
赦されることは救われること

 

これは、国際基督教大学の初代学長であった湯浅八郎が座右の銘とした言葉だそうだが、平和を愛し、人々の相互理解の大切さを説き、誤解や復讐心からの暴力を戒めたマンデラの生き様を映し出す言葉にも思えてくる。スポーツを通じて人種問題を乗り越えたこの実話は、さわやかな感動を何度も味わうことができる傑作に仕上がっている。ラグビーのルールを知らなくとも、必ず心が震えるに違いない。(G)

 

09年・米・133分・ワーナー・ブラザース映画配給

 

 

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