母なる証明

 

善と悪

 

すごい韓国映画があるという。殺人事件の容疑者となった息子の無実を証明するべく真犯人を追う母親の姿を描くサスペンスがそれだ。「母なる証明」という邦題のついたこの作品は、ポン・ジュノ監督が自ら書き下ろした人間ドラマでもある。

 

韓国の小さな町の漢方薬店で働きながら闇で鍼治療もする「母」(キム・ヘジャ)は、一人息子のトジュン(ウォンビン)と貧しいながら懸命に生きている。息子は内気だが朗らかな〝小鹿のような目をした〞純粋な青年であった。

ある日、二人の住む町で凄惨な事件が起こる。一人の女子高生が無残な姿で見つかったのだ。事件の晩、酔っ払ってその女の子に声をかけたトジュンが容疑者として逮捕される。警察がおざなりな捜査で事件に片をつけようとする中、息子の疑惑を晴らそうと「母」はたった一人で真犯人を追って走り出す。

警察を含め事件に関係する人々はみな自分の利益しか考えていない。弁護士しかり、トジュンの友人しかり、女子高生たちしかり。子を思う「母」は真剣だ。血眼になってなりふりかまわず自分なりの捜査を進めていく。ひとつひとつのシーンが濃厚で、その後の展開につながっていく。129 分という上映時間を全く長く感じさせない緊迫感が続く。

「母」の子に対する無償の愛を通じて、親子の絆、善と悪、光と影を描き出すこの作品。「人生とは何か」「人間とは何か」という問いに「簡単に答えは出せないよ」と諌められているような気持ちになった。

何が良いことで、何が悪いことなのだろう。何が正しくて、何が間違っているのだろう。私たちの行動はいつも「すべての人の幸福を追求する」方に向いていなければならない。「自分さえ良ければ他人に迷惑をかけてもかまわない」とか「見つからなければ自分に不利益にならないからいい」などの考えは戒められなければならない。自分が少しでも良い思いをしたいからと、他人を不幸にするような行動を取れば、それは悪いこと、間違っていることとなるのだ。人権を守ろうとするところに特権は存在してはならないはずである。

 

息子役のウォンビンは、端正な顔立ちで、日本での韓流ブームの先駆者の一人としてペ・ヨンジュン、チャン・ドンゴン、イ・ビョンホンとともに〝韓流四天王〞と称された。本作は、兵役後初となる実に5年ぶりの映画出演となる。そして、母親役を演じるキム・ヘジャはTVを中心に活躍し〝韓国の母〞と称されるほどの大女優。彼女の演じる「母」の苦悶が観るものの心を揺さぶり、その存在感が画面を圧倒する。

キム・ヘジャと映画を撮ってみたかったというポン・ジュノ監督は、「この映画はサスペンスであると同時に、子を思う母の狂おしい愛情を描いているのです」と語る。「誰にでも母親がいます。そして母と子の関係は、人間関係の基本なのです」という監督の言葉通り、母親という存在を通して、美しくも悲しい人間という生きものを鋭く見つめた傑作だ。(G)

 

09年・韓国・129分・ビターズエンド配給

 

 

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