ウォーリー

 

スキンシップ

 

「レミーのおいしいレストラン」「モンスターズ・インク」「ミスター・インクレディブル」。今までこのコーナーで紹介してきたピクサー作品には、いつも驚かされた。そして、今回の「ウォーリー」でもまた新鮮な衝撃をいただいた。

実写か?と見紛うばかりの卓越した技術のアニメーションに心を奪われる。最初の40分間はほとんど台詞もなく、人間の姿はスクリーンに映し出されない。映像によって描かれる知と美の叙事詩のようだ。寂れた摩天楼の残る荒れ果てた都市に住む住人はゴミ処理用ロボット一機と彼の相棒のゴキブリ一匹。人の影は全く見えないものの、昔人々が生活していたであろう形跡はあちこちに見られる街。

地球温暖化が進み、地球上から人類が消えていくという未来予想図は、願わくは虚構の世界にとどめておいてほしいものだ。

 

人類の生き方、自然との共存の仕方に警鐘を鳴らすというテーマとは別に、この作品が掲げているもうひとつの主題は「愛」。心がなごむ甘いラブ・ストーリーが全編を通じて語られる。誰の愛って?もちろん主役のゴミ処理ロボット、ウォーリーの純粋な愛である。

たったひとり地球に取り残されて仕事をこなしてゆく彼の愉しみは、ミュージカル映画「ハロー・ドーリー」のビデオを観ること。男女が手を握るロマンチックなシーンを見ては人恋しさを募らせるウォーリーのもとに、ある日訪問者がやってくる。真っ白に輝くロボット、イヴに彼は恋をしてしまう。「手を握る」という行為に憧れにも似た思いを持つウォーリーは、何とかイヴと仲良くなって彼女の手に触れてみたいと望むのだが・・・

 

抱きしめたり、やさしく体に触れたりすることは、大切な愛情表現のひとつである。そして、「触れ合いたい」という思いは、誰もが持つ欲求である。それは、なにも恋人同士に限ったことではなく、赤ん坊からお年寄りまで変わることはない。

以前、児童養護施設長である新田目建さんの講演で、「抱っこボランティア」の話を聞いたことがある。会社人間で退職をした元サラリーマンの男性が、「何か社会奉仕がしたいのだけれど、何ができるか自分でもわからない。でも、何かお手伝いしたい」と新田目さんを訪ねて来られたそうだ。その男性に新田目さんは、「お孫さんにしてあげたことをうちの幼児たちにもしてください。例えば夕食が終わった後、居間でテレビを見ていたらきっとお孫さん、あぐらの中にすっぽりとおさまって一緒にテレビを見てるでしょ。それから背中によじ登ったり、頭の髪の毛を引っ張ったりするんじゃないですか?それをやってください」と頼んだという。

親や周りの大人とのあたたかいふれあいが子どもには必要なのだ。お父さんやお母さんのひざに抱かれれば、悲しい気持ちだったのがやわらぎ、転んでつくった擦り傷の痛みも消えてしまうという。子どもにはやさしい言葉だけでなく、スキンシップが不可欠なのだ。

 

時代遅れであちこちにきしみがきた箱型ロボット、ウォーリーが恋をした流線型の最新型ロボット、イヴ。ふたり(二機)が表現する「願望」「いらだち」「無関心」「献身的愛情」「不安」があなたを物語に引き込んでくれる。そして、感情を素直に表現することの素晴らしさに改めて気づかせてくれる。(G)

 

08年・米・98分・ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン配給

 

 

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