レミーのおいしいレストラン

 

一口一口堪能できる

 

「自分の限界を決めるのは自分自身である。誰にでも料理はできる。だが、勇気あるものだけが一流になれるのだ。」かつてフランス料理最高の〝5つ星〞を与えられた天才シェフ、グストーの言葉だ。その言葉とともにグストーを崇拝するネズミのレミーと料理が苦手な見習いシェフのリングイニ。この二人の出会いがフランス料理界に巻き起こす大事件を描いたアニメーション映画を今回はご紹介したい。

 

すぐれた嗅覚と味覚をもつ料理の天才レミーは、フランス料理のシェフになることが夢だ。しかし、それは叶わないこと。レストランのキッチンにネズミは、いてはならない存在だから……。レストラン〝グストー〞では、新米見習いシェフのリングイニがスープを台無しにしてしまっていた。思わずキッチンに入ってしまったレミーは、夢中になってスープを作り直すが、それをリングイニに目撃されてしまう。小さな天才シェフが人間の言葉を解することを知ったリングイニは、とんでもないアイデアを思いつく。「二人で、パリ一番のシェフを目指すんだ!」

 

二つの台詞が心に残った。

ひとつは、レストラン〝グストー〞唯一の女性シェフであるコレットの言った言葉。 「このキッチンに女性は何人いる?私だけよ。なぜだと思う?なぜなら高級料理の世界は、バカな老いぼれ男たちが作ったルールにしばられた時代遅れの階層社会だからよ。女性にとっては、この世界に入るのは絶対無理ってくらい敷居が高いの。でも、私はここにいるわ。どうして?なぜなら、私はこのキッチンで一番タフなコックだからよ。誰よりも一生懸命働いて、誰よりも長い時間キッチンにいてやっとここまで来たのよ。」

コレットは、彼女の働く世界が男女平等の視点から公平でないことを知っている。そんな彼女だから、「誰にでも料理はできる」という言葉を遺したグストーを心から尊敬している。

もうひとつの台詞は、フランス料理界において最大の権威をもつ料理評論家イーゴの言葉だ。「私は、かつてグストーの著名なモットー『誰にでも料理はできる』に対して侮蔑をあらわにしていました。しかし、今になって彼の意図をようやく理解できたのです。誰もが偉大な芸術家になれるわけではないけれど、偉大な芸術家は出自に関係なく誰でもなれるのです。」

 

ピクサーという会社は、この映画に託すメッセージにこだわりをもっている。それはひとつに、映画が成功するかどうかの最も大切な要素のひとつであるタイトルにも表れている。邦題は「レミーのおいしいレストラン」だが、原題は「R a t a t o u i l l e」。あまり聞いたことがないフランスの田舎家庭料理の名前だ。この中世が起源の野菜シチューを知っている人は少ないだろうし、あまり関心も示さないだろう。あえてそうしたのには理由がある。きらびやかで華やかなものがもてはやされる世の中で、私たちが本当に大切にしたいものは人に寄り添うあたたかさなのだ。

先入観や偏見に揺り動かされない確かな感性をいつも自分のものにしていたいなあ、と改めて思わせてくれた映画である。R a t a t o u i l l e、最後の一口までおいしくいただいた。ぜひあなたもご賞味あれ。味は保証しますよ。(G)

 

07年・米・110分・ウォルトディズニースタジオモーションピクチャーズジャパン配給

 

 

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