アラバマ物語

 

父と子の愛情物語

 

廉価版のDVDとして各社が販売している「ワンコインDVD」がある。「ローマの休日(1953年)」や「雨に唄えば(1952年)」など往年の名画が500円で手に入るので、思わず「買っちゃおう」と心が動いてしまう。この「アラバマ物語」もそれで入手した。

 

原作はピューリッツァー賞(新聞などの印刷報道、文学、作曲に与えられる米国で最も権威ある賞で、コロンビア大学ジャーナリズム大学院が同賞の運営を行っている)を獲得した女流作家ハーパー・リーの小説“To Kill a Mockingbird(物まね鳥を殺すこと)”。この作品でグレゴリー・ペックはアカデミー最優秀主演男優賞を獲得した。

 

世界恐慌にあえぐ1930年代、アメリカ南部アラバマ州の小さな町で起こった暴行事件。その容疑者として、ひとりの黒人=トムが起訴されるが、それはまったくの冤罪であった。同じ町に住む正義感の強い弁護士・アティカス(グレゴリー・ペック)はトムの弁護を引き受けるが、黒人に対して偏見を持つ町の人々に冷たくあたられ、さらには脅迫まで受ける。しかし、そんなことにも動じず、トムの無罪を信じ戦い続ける勇気ある姿を、彼の二人の子ども・スカウトとジェムの目を通して描いてゆく。

この映画を特別なものにしているのは、われわれ観衆が子どもたちの目を通して物語りを体験していくということだ。脅迫、不正、痛み、怖れ、希望―それらすべてがスカウトとジェムの立場から描かれることで観るものの感情を揺さぶってゆく。人種差別というあからさまな愚かさが子どもたちの本来持ち合わせている公平性と無垢な純粋さによって増幅されて映し出される。

グレゴリー・ペックの卓越した演技抜きにもこの映画は語れない。彼の演じるアティカスは知性的で、力強く、思いやりがあり、責任感のある、心優しい人物である。その演技はとても自然で、子どもたちとのやり取りも彼の実生活がそのまま映像になったのではないかと疑うほどだ。

「物まね鳥を殺してはいけないよ」という件がある。「だって、物まね鳥は、私たちのために歌を歌ってくれるだけで悪いことは何もしないんだ」と。この物まね鳥が、無実の罪を着せられたトムのことを暗示していることは想像に難くない。

親の生き様から、教師の言葉から、子どもたちはいろいろなことを学んでいく。それらが普遍的な真理で、人道的な内容であることを願ってやまない。相手を尊重することと理解することが平和的共存の鍵であることは間違いない。このふたつを身につければ、先入観や偏見は簡単に覆すことができるだろう。スカウトとジェムは、そういうことをまわりの大人たちから学び取っていく。

 

「あらゆる差別に反対する」「核軍縮は私の人生にとって最大の関心事だ」などの言葉を残したグレゴリー・ペックは、アカデミー賞の授賞式でこう語った。「今まで生きてきた46年間で学んだ家族生活や子どもに対する自分の気持ち、そして人種差別と不平等に対する私の感情のすべてをこの役に集約した」と。

さあ、500円ですよ。買ってみますか?(G)

 

62年・米・129分・日本ユニヴァーサル配給

 

 

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