ダーウィンの悪夢

 

悪夢のグローバリゼーション

 

痛ましいほどのドキュメンタリー映画の舞台は、タンザニアのムワンザ。巨大なソビエト製の貨物機が発着する空港から始まる。屈強なロシアとウクライナ出身のパイロットたちは、ヴィクトリア湖の漁師によって捕らえられ地元の工場で加工された魚を積んでヨーロッパへ飛び立つ。

多くの人たちにインタビューしながら映画はすすんでいく。話を聞く相手は、牧師、売春婦、路上生活をする子どもたち、漁師、パイロット、そして元兵士と幅広い。ひとつの単純な質問を聞き続ける「飛行機は何を運んでくるのか?」。

 

「ダーウィンの悪夢」は苦悩にゆがむグローバリゼーションの顔を描き出す。何百万ものナイルパーチが皮をはがれ、切り身にされ、急速冷凍され、富める国に輸出される一方で、何百万ものタンザニアの人々は飢餓と隣りあわせで暮らしている。

ナイルパーチの身を取ったあとの頭や骨を油で揚げて食べる人々もいる。しかし、その加工をする場所は露天で蛆(うじ)虫がわき、ゴミをあさる鳥たちでいっぱいだ。湖のほとりでは路上生活をする子どもたちが食料をめぐってけんかをし、魚を入れる容器を焼いて出る煙を吸ってハイになる。漁師たちが暮らす野営地にはエイズがはびこり、健康を害した者は自分の村まで歩いて帰るしかない。

半世紀ほど前放たれた巨大な肉食の外来魚ナイルパーチは、他の在来魚を食い荒らしながらどんどん繁殖し、「ダーウィンの箱庭」とまでうたわれたヴィクトリア湖の生態系を破壊した。しかし、ある人々にとっては、それが恩恵となる。加工し輸出することのできるこの魚に世界銀行とEUが多額の補助金を出したからだ。

日本も毎年約三千トン前後のナイルパーチを、タンザニア、ケニア、ウガンダから輸入している。二〇〇三年までは、“白スズキ”という名で国内流通していたが、品名表示に関する法規制が強化され“ナイルパーチ”と表記されるようになった。現在では外食産業や給食などの白身魚フライにも良く使われる。くせのない白身魚として意外と身近に私たちの食卓にのぼっているようだ。

 

オーストリア出身のドキュメンタリー作家でもあるフーベルト・ザウパー監督は、「生命にとって、最も大きな危険は『無知』だ」と語る。彼は、この映画でグローバリゼーションという状況の中での、愚かさの仮面をはぐという試みをしたと言う。しかし、この映画のメッセージが一部で誤解され、「悪い魚の映画だ」という意見が広がり、この魚を食べないようにしようと、ナイルパーチのボイコット運動が起こった。しかし、問題はそんなに単純ではない。

ナイルパーチによって経済が発展し、工場ができて、雇用が生まれるのは素晴らしいことだ。

しかし、「世の中にはポジティブなことが起こっていれば、その裏で必ずネガティブなことが起こっているのです」とザウパー監督は語る。「ポジティブな面の方が目に付きやすく、高級車を購入した人やムワンザの町に建ったビルは目に付きます。しかし、その陰で、静かにエイズで死んでいく子どもは目に見えません。そういった、普通は隠れていて目に見えない部分を見せるのが仕事です。“悪いところ”を見せるのではなく、自分が感じたことを見せたいと思っています」と。

北に住む豊かな先進国と南に住む貧しい発展途上国の人々。ものごとの二面性を考えさせられる衝撃的なドキュメンタリー映画である。(G)

 

04年・フランス=オーストリア=ベルギー=カナダ=フィンランド=スゥエーデン・112分・ビターズエンド配給

 

 

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